日本郵便に“異例の処分”──2,500台のトラックが止まる理由とは?

社会

【重要度:★★☆☆☆…ニュースとしてのインパクトは強いが、今すぐ私たちの郵便サービスが止まるわけではない。ただ、“物流の現場”が抱えている深刻な問題が表に出た出来事。ネットショッピングなどで誰もが気軽に利用しているサービスだからこそ、このような問題が起きたことは認識しておきたい】

日本郵便の不適切点呼問題、運送事業許可取り消しへ…郵便局のトラックなど2500台対象
【読売新聞】 日本郵便(JP)で運転手への点呼が適切に行われていなかった問題で、国土交通省は月内にも、JPに対する自動車貨物運送の事業許可を取り消す方針を固めた。全国の郵便局のトラックやワンボックス車など約2500台による運送事業が

「郵便が止まるかもしれない——」

そんな不安な声がSNSに飛び交いました。

6月5日、日本郵便に対して、国が自動車貨物運送の事業許可を取り消すという異例の処分を出す方針を固めたからです。
点呼や安全確認がずさんだったことが原因で、約2,500台のトラックが9月から使えなくなる見通しとなっています。

「じゃあ郵便物はどうなるの?」「ゆうパックは届くの?」

そんな疑問も当然出てきます。

でも、このニュースが示しているのは単なる郵便の話だけではありません
物流の現場が、いま限界にきているという、もっと根深い構造的な問題でもあるのです。

今回はこのニュースを入り口に、何が起きているのか、そして私たちの生活にどんな影響が出るのかを見ていきます。

2,500台のトラックが止まる──許可取り消しの全貌

ことの発端は、日本郵便に対して、国土交通省が自動車貨物運送の事業許可を取り消す方針を固めたというニュースです。

日本郵便は、郵便物やゆうパックなどを全国の郵便局間で運ぶトラック輸送にも取り組んでおり、今回の処分対象になるのは、そのおよそ2,500台のトラックです。

国交省がこうした厳しい判断に踏み切ったのは、ずさんな安全管理が発覚したから
全国の郵便局で行うべき「点呼」(乗務前後の健康確認やアルコールチェックなど)が形骸化しており、記録改ざんも横行していたことがわかりました。

この許可取り消しが9月に正式決定されれば、約2,500台のトラックは一切使えなくなる見通しです。
しかも、許可の再取得には最低でも5年かかるため、簡単に元に戻せる話ではありません。

なお、実際の局間輸送の多くは子会社や協力会社も担ってきた経緯がありますが、今回対象となるのは日本郵便本体が保有する事業許可に基づく部分です。

国が物流事業者にここまで踏み込むのは極めて異例の措置であり、郵便の現場にとっても大きな影響が出ることは間違いありません。

なぜ“ずさんな点呼”が広がったのか ── 今回の処分の背景

実は今回の問題、突然発覚したわけではありません

きっかけは今年1月、近畿地方の郵便局で、法定の点呼が実施されていなかった事案が発覚したことでした。
これを受けて日本郵便は、まず近畿管内の同規模局で調査を実施
不適切な運用が多数確認されたことから、全国規模で実態を把握する必要があると判断しました。

その後、日本郵便は全国3,188拠点すべてを対象に自主調査を実施。
その結果、約75%(2,391拠点)で、乗務前後に行うべき「点呼」や安全確認不備があったことが判明したのです。

この結果を受けて、国土交通省は独自に特別監査を実施。
全国のうち関東・関西など119局を重点的に監査した結果、6割以上の拠点で不正が確認されました。

こうした経緯を踏まえて、今回の事業許可取り消しという極めて重い処分方針が打ち出された、という流れです。

では、なぜこうしたずさんな状態が広がってしまったのでしょうか。

背景には、慢性的なドライバー不足や人手不足、コスト削減の圧力があり、
現場で「とりあえず帳簿はつけておく」文化が定着してしまっていたとみられています。

「やったことにしておかないと業務が回らない」という、現場側の苦しい事情が積み重なっていた側面もあります。

郵便物を運ぶトラックの運転手は、本来、出発前と帰着後に「点呼」を受けなければなりません。
これは単なる挨拶ではなく、健康状態のチェックや飲酒していないかの確認といった、命にかかわる確認作業です。

ところが、日本郵便の現場ではこの点呼がほとんど行われていなかったことが発覚しました。
一部では、点呼をやったことにして書類を改ざんしていたケースも多かったといいます。
つまり、実際には安全確認がされていないのに、「やりました」と帳簿だけが残っていたのです。

こうした管理のずさんさが積み重なった結果、現場での安全意識の低下が深刻な状態になっていました。

こうした実態を受けて、国交省は「これはもはや是正のレベルではない」と判断。
事業そのものの許可取り消しという異例の対応に踏み切ったのです。

“5年間トラックが使えない”──日本郵便の次の一手は?

この許可取り消しは、すぐに発効するわけではありません

国土交通省はまず、6月18日に「聴聞」という手続きを行います。
これは、事業者側の言い分を正式に聞いたうえで、最終判断を下すというものです。

ただ、日本郵便も今回の問題を重く受け止めており、処分自体を争う姿勢は見せていません
そのため、処分は9月にも正式に発効される見通しです。

では、許可が取り消されるとどうなるのでしょうか。

日本郵便が保有する約2,500台のトラックは、一般貨物自動車運送事業の許可なしでは運行できなくなります
しかも、この許可は最短でも5年間は再取得できないルールとなっています。

つまり、日本郵便は今後5年間は自力でのトラック輸送を行えなくなるのです。

こうした「許可取り消し」という処分は、物流業界でも年に数件出るか出ないかという非常に重い措置です。
通常は
「業務停止命令」などで済むケースが多く、許可そのものを失うのは事業継続がほぼ不可能になるレベルの厳罰。
特に、全国規模の大手事業者にこの処分が下るのは極めて異例であり、それだけ今回の違反内容が深刻だったといえます。

これを受けて、日本郵便は大急ぎで代わりの輸送体制づくりに動いています。

具体的には、

  • ヤマト運輸や佐川急便など、外部の物流会社に輸送を委託
  • 自社の軽車両やバイクを活用して「ピストン輸送」を強化

こうした方針を明らかにしており、郵便物の配送に穴が空かないよう全力を挙げるとしています。 とはいえ、これはかなりの規模の体制変更
現場でどこまでスムーズに代替輸送が確保できるのかは、今後の大きな注目点になります。

郵便やゆうパックは大丈夫?──今回の処分で変わること・変わらないこと

ニュースを見て、真っ先にこう思った人も多いはず。

「郵便物、届かなくなるんじゃ?」
「ゆうパックも止まっちゃうの?」

今のところ、日本郵便は 「郵便サービスは止めない」と明言しています。

今回許可を取り消されるのは、郵便物を運ぶ“裏側のトラック輸送”の一部
つまり、ポスト投函の普通郵便や、バイクで配達される郵便物は今まで通り届けられます
→ 郵便配達員が使うバイクや軽車両は今回の許可対象外のため、そこに直接の影響は出ません。

一方で、郵便局間の中長距離輸送を担当していた約2,500台のトラックが使えなくなるため、
この部分をどうカバーするかがカギになります。

ここでポイントになるのは、物流業界はもともと「協力し合って長距離輸送を支えてきた」業界だということ。

日本郵便も通常から、ヤマト運輸や佐川急便、日本通運などと一部協力関係を築いており、長距離輸送や繁忙期の輸送量増加時には外部委託を活用するのが一般的な形になっています。

今回は、そうした枠組みを大幅に広げる形で対応する予定です。
すでに日本郵便は、ヤマトや佐川などとの委託契約拡大を検討中と報じられています。

日本郵便は、

  • ヤマト運輸や佐川急便など、外部の物流会社に委託
  • 自社の軽バンやバイクによる近距離の“ピストン輸送”

といった体制でカバーする方針です。

そのため、私たちが郵便物やゆうパックを出す/受け取るという行動そのものは、基本的には変わりません

ただし──。

こうした大規模な輸送体制の切り替えは、すぐに完璧に回るとは限りません
特に年末年始の繁忙期などに向けて、本当に十分な輸送力が確保できるのかはまだ不透明です。

また、緊急的な外部委託や体制変更にはコストがかかるため、
将来的に送料やサービス内容に影響が出る可能性もあります。

今回の出来事は、「とりあえず郵便は動くけど、物流現場は相当無理をしている」ことを私たちに見せてくれたニュースでもあります。

まとめ

今回のニュースは、「郵便物が届かなくなるのか」という一時的な心配だけで終わる話ではありません。

実はいま、物流の現場は全国的にひっ迫しています
ドライバー不足、コスト削減、厳しいスケジュール
その結果、安全確認さえ形骸化していた今回のような事態が起きたとも言えます。

私たちがネットで気軽に「翌日配送」を選べる時代の裏側では、こうした現場のひずみが少しずつ積み重なっているのが現実です。

今回の処分は厳しいものですが、それだけ物流業界全体が「このままでは持たない」というサインとも取れるはずです。

郵便が止まることはなさそうですが、物流という“当たり前の仕組み”がいかに綱渡りで動いているのか
ちょっとだけ、その裏側にも目を向けてみる機会にしてもいいのかもしれません。

「ジブンゴト+」でもっと深く

一時期大きな話題になった「2024年問題」

今やネットショッピングも当たり前になり、物流への需要が大きくなる中で、トラックドライバーなどの労働環境の過酷さも問題視されていました。

そこで残業時間の規制がされたわけですが、今度は人手不足が大きな問題に。
物流業界はただでさえ人手が足りないと言われていた業界ですが、そこにこの労働時間の規制ができて、今後どうしていくのかが毎日のように取りざたされていました。

そこから1年以上が経ち、「2024年問題」という単語もあまり聞かなくなったところに今回の日本郵便の問題。

「2024年問題」は現在どうなっているのか、これを機に考えてみました。

そもそも「2024年問題」とは何かから解説しているので、知らなかった人も正直に見てみてください。

2024年問題はどうなったのか?──日本郵便の処分から考える|ジブンゴト+|須賀ゆめと
この記事ではJIBUNGOTOで公開している【日本郵便に“異例の処分”──2,500台のトラックが止まる理由とは?】を掘り下げていきます。 日本郵便に“異例の処分”──2,500台のトラックが止まる理由とは?日本郵便に“異例の処分”──2,...

コメント

タイトルとURLをコピーしました