【重要度:★★★☆☆…日常生活にすぐ直結する話ではないけど、“外交の戦略”が変わってくる出来事。“革新系”の大統領となったことで、特に安全保障や歴史問題などの分野で、今後日本と衝突が起きる可能性もあり、それらの背景として押さえておきたい】

韓国の大統領選挙が3日に投開票され、李在明(イ・ジェミョン)氏が勝利し、新しい大統領に就任しました。
韓国といえばK-POPや韓国料理、ファッションなど、若い世代にとってもなじみ深い国の一つ。日本のすぐ隣ということもあって、「旅行に行ったことがある」とか「いつか行ってみたい」いう人も多いと思います。
それでもそんな韓国の「大統領」となるとピンとこない人が多いかもしれません。
そもそも「前の大統領って誰?」というレベルの人もきっと少なくないのでは。
でも実は、韓国の大統領が誰になるかって、日本にとっても結構大事なことなんです。
お隣の国だけに、いい意味でも悪い意味でも距離が近い韓国。
文化では仲良しでも、政治や外交ではバチバチすることも少なくありません。
たとえば――徴用工の問題や、竹島をめぐる領土問題、軍事的な協力関係のあり方など。
どれも新しい大統領がどう動くかで、日韓関係の空気も変わってきます。
この記事では「そもそも何が起きていたのか」「季在明ってどんな人なのか」「日本との関係はどうなっていくのか」など、できるだけ分かりやすく整理していきます。
そもそも何が起きたの?―韓国大統領選をざっくり整理
前大統領がクビ→急遽選挙へ
2025年6月3日、韓国で大統領選挙が行われました。
そこで最大野党「共に民主党」の季在明氏が勝利し、新しい大統領に就任しました。
韓国の大統領選は基本的に5年に1回だけ。
しかも同じ人が続けて出ることはできないルールなので、選挙のたびにトップが変わっていきます。この辺日本とは違いますね。
前回の大統領選は2022年に行われて、「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソンニョル)氏が当選。大統領として韓国のかじ取りをしてきました。
通常であれば、次の選挙は5年後の2027年の予定だったんですが――
今回はちょっとイレギュラー。尹前大統領が「クビ」になってしまったことで、予定より早く選挙が行われたんです。
というのも尹前大統領は2024年12月に「非常戒厳(かいげん)」を宣言しました。
これは憲法で定められた、めちゃくちゃ強い権限で、本来は北朝鮮の軍事行動とか、大規模な暴動が起きたときに使われるもの。
非常戒厳が発令されると、基本的に軍が治安維持の主導権を握ることになります。
警察の代わりに軍が街の安全を担ったり、集会やデモの自由が制限されたり、メディアの報道に検閲が入ることもあるなど、いわば「非常事態モード」になるんです。
しかも今回は、尹政権に批判的だった国会を一時的に機能停止させたり、野党政治家の活動を制限したりする動きもあったとされ、「民主主義の破壊だ」と強い反発を招きました。
でもこの時は、政権への批判や支持率の低下に対して“強攻策”として使ったとされ、議会を止めたり、デモを力で排除したりと明らかにやりすぎだったんです。
憲法裁判所が「それは違憲だ」と判断し、国会も「さすがにアウト」となって罷免を可決。
こうして尹前大統領は、憲法違反の責任を問われて職を追われる形になりました。
その結果として行われたのが、今回の繰り上げ大統領選だったというわけです。
争点は「前政権への審判」と「経済再生」
こうした背景から、今回の選挙の大きなテーマは「非常戒厳令を使った尹前政権にどう向き合うか」と「落ち込んだ経済をどう立て直すか」でした。
多くの国民にとって、あの戒厳令は「民主主義に対する裏切り」と映ったようです。
李在明氏は遊説で「今回の選挙は、非常戒厳令を容認した与党への審判の場だ」と訴え、共感を広げていきました。
また、尹政権時代の韓国経済はあまり元気がなく、物価の上昇や若者の失業率の高さなど、生活に直結する問題も深刻化していました。
弁護士出身の季氏は、「格差の是正」や「福祉の強化」といった生活に寄り添う政策を打ち出し、幅広い層の支持を集めました。
対する与党「国民の力」からは金文洙(キム・ムンス)氏が立候補。
「安全保障重視」「財政の健全化」を訴えたものの、尹前大統領の「非常戒厳令」を許した与党への不信感を覆すには至りませんでした。
最終的に、季氏が49.42%を獲得し、金氏(41.15%)を破って勝利。
投票率は79.4%と28年ぶりの高水準で、国民の関心の高さが伺えます。
韓国の大統領には、外交や安全保障、予算編成まで幅広い権限があります。
つまり、誰がトップに立つかによって、国の方向性そのものがガラッと変わるということ。
今回はまさに、「前の政権にNOを突きつけるのか」「経済をどう立て直すのか」の分かれ道となるような選挙だったんです。
季在明ってどんな人?
ハングリー精神の塊
新しく韓国のトップとなった季在明氏は、韓国政界でもちょっと異色の存在として知られています。
1963年生まれと、1950年代生まれが多い韓国の政治家の中では比較的若め。しかも育ちは決して恵まれていません。
貧しい家庭で生まれ、小学校卒業後はすぐに工場へ。昼間は働き、夜は夜間中学で学ぶという生活を送っていたそうです。
その後、工場でのけががきっかけで学業に専念し、独学で司法試験に合格。そこから弁護士としてキャリアをスタートさせました。
同時に市民運動や人権問題にも取り組み、社会で弱い立場の人たちの声をすくい上げることに力を注いできました。
「エリートが上から目線で政治をする」ことへの反発心が、彼の行動力の原点にあるのかもしれません。
政治家としては
その後は政界へ進出し、まずは城南(ソンナム)市の市長を2期務めました。
このときは、福祉政策の拡充や財政改革など、生活に近い政策で実績を残し、一気に注目を集めます。
さらに京畿道(キョンギド)の知事に就任すると、全国的な知名度も獲得。
「福祉をもっと」「政治は生活のためにある」というメッセージは、苦しい生活を送る若者や庶民層の心をとらえていきました。
ただしその一方で、物言いがストレートすぎる場面も多く、SNSでの発言が炎上することもしばしば。敵も多いと言われるタイプで、支持と反発がくっきり分かれる人物でもあります。
今回の大統領選では庶民目線の政策を前面に出し、都市部や若者を中心に広く支持を集めての勝利となりました。
日本にどんな影響があるの?
季在明氏の当選で、韓国では約3年ぶりにいわゆる“革新系”の大統領が誕生しました。
“革新系”というのは、ざっくり言うと「今の社会を変えていこう」という立場。
格差をなくしたり、庶民や若者の暮らしをよくしたりすることを大事にする考え方です。福祉や教育にお金を回す一方で、大企業や財閥に偏った構造には批判的。
外交では、北朝鮮との対話を重視したり、日本との歴史問題に厳しいスタンスをとったりすることが多いのも特徴です。
ちなみに前の大統領は「安定」や「秩序」を重視する“保守系”。
“保守系”は北朝鮮に対して厳しい姿勢を取りやすく、日米との同盟を重視しがちです。
経済でも財閥や大企業に成長を引っ張っていってもらうようなスタンスが特徴です。
今回の交代によって、日本と韓国の関係にもじわじわ変化が出てきそうです。
安全保障ではちょっと温度差がでるかも?
これまでは「アメリカ・日本・韓国で協力して、北朝鮮や中国に備えよう」という流れでした。
特に前の大統領はこの“仲良し三角関係”を大事にしていました。
でも、新しい大統領は「それよりもまずは自分たちの暮らしをよくすることが先でしょ」という考え方がベース。
だから、北朝鮮に対する圧力や日米間での合同訓練みたいな話は、少しペースダウンするかもしれません。
日韓の首脳会談なども、しばらくは静かになる可能性があります。
領土問題でまた火花が散るかも
竹島を巡る問題はまた注目されるかもしれません。
韓国では竹島のことを「独島(ドクト)」といい、「独島は韓国のもの」と教科書にも書かれているくらい、竹島に対する思い入れが強いです。
実際に韓国の警察官が常駐していたり、韓国の政治家が上陸したりすることもあり、そのたびに日本政府は抗議しています。
新しい大統領は、こうした領土問題で“譲らない”姿勢を選挙期間中から明らかにしていました。竹島を巡る問題をきっかけに、日本との関係がギクシャクする可能性は大いにあります。
「歴史」の話が再燃する可能性
新しい大統領は、「過去の日本との約束は見直すべきだ」とも話しています。
たとえば、日韓の間では2015年に「慰安婦問題は最終的かつ不可逆的に解決した」とする合意が結ばれたことがあります。
でもその後、韓国国内では「被害者の声がきちんと反映されていない」といった批判が強まり、合意の履行は事実上ストップしています。
また、徴用工(ちょうようこう)と呼ばれる、戦時中に日本企業で働かされた韓国人の元労働者をめぐっても、韓国の裁判所が「日本企業が賠償すべき」と判断したことで、日本との間に温度差が生まれました。
こうした「歴史認識」のズレはちょっとしたことで再燃しがち。
日本と韓国の雰囲気が一気に悪くなる火種でもあります。
観光や文化の面で、“ちょっと冷える”かも
政治がこじれると、韓国国内で、「じゃあ日本に行くのやめとこ」みたいな空気が生まれるかもしれません。
これまでも韓国で日本製品の不買運動が起きたこともあります。
とはいえ、日本のアニメやファッション、韓国の音楽やグルメなど、文化的にはお互いに強い人気があるので、一般の人どうしの関係まで一気に冷え込むことは少ないかもしれません。
もちろん、すぐに大きく関係が変わるわけではありませんが、「ちょっと空気が変わってきた」と感じる場面はこれから出てくるかもしれません。
まとめ
今回の選挙で誕生したのは“変えていこう”という姿勢をもつ革新系の大統領。
日本との距離感や、北朝鮮への姿勢、経済へのスタンスなど、前の政権とはいろんな点で考え方が違います。
でも、日韓関係って「仲良くする/しない」みたいな0か100の話ではありません。
安全保障・文化・歴史…とそれぞれのテーマで行きつ戻りつしながら続いていくものだと思います。
今回の新大統領誕生も、まだ“選挙が終わった”という段階。
実際にどんな政治をするのか、どう関係が動くのかはこれからの話です。
正直韓国によく行く人やよっぽど興味のある人でもなければ、他国の政治事情をずっと追ってる人なんて、そうそういるわけがありません。
「韓国で大統領が変わったんだな」「これからちょっと変わるのかもな」くらいつかんでいるだけでも、十分“知ってる”ってことだと思います。
「ジブンゴト+」でもっと深く
いろいろとつながりの強い日本と韓国ですが、共通点として、どちらも「少子化」問題に悩まされていることもあります。
つい先日、2024年の日本の出生率が、統計開始以降初めて70万人を割ったという報道が出ました。
1人の女性が生涯で何人の子どもを産むのかを示す合計特殊出生率も過去最低の1.15に落ち込みました。
韓国はもっと深刻。合計特殊出生率は前年から0.03回復したとはいえ、0.75と世界最小の数字。
それだけに少子化対策にも力を入れて取り組んでいますが、現状はまだ成果が出ているとはいいがたい…。
少子化対策と言えば、出産一時金や子ども手当などが思いつきますが、日本も含めてそれって本当に的確な対策なんだろうか。
若い人が子どもを産まないのにはもっと根本的な問題があるのではないでしょうか。
日韓の少子化対策に触れながら、そんなことを深堀りしてみました。

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