10万円で未来を動かす ─ 株が“お金持ちだけのもの”じゃなくなる時代

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東証、最低投資額「10万円程度に」 上場企業に引き下げ求める方針 | 毎日新聞
東京証券取引所は24日、上場企業に対して株式投資の最低投資額を引き下げるよう求める方針を発表した。最低投資額は個人投資家の多くが望む10万円程度が適切だとすることを周知。企業に株式分割などの対応を促すとともに、個人投資家が少額でも投資しやす...

「株って、お金持ちだけのものだと思ってた」
そんな思い込みを、根本から変える動きが始まっています。

2025年4月24日、東京証券取引所が金融庁に対して、取引単位(単元株)の目安を、現行の約50万円から10万円へ引き下げるよう要請したと報じられました。

もしこの動きが実現すれば、これまでまとまった資金が必要だった個別株投資が、学生や新社会人でも、一括10万円で始められる時代になるかもしれません。

でも、これは単なる「小口投資のチャンス」という話ではありません。
社会の仕組みそのものが、静かに動き始めている。

「預金ばかり」に偏る日本のマネー文化。
「個別株は怖い」と遠ざけてきた若い世代。

その空気を変えて、もっと多くの人が“自分で社会を選び、未来に関わる力”を持てるように──。

小さな金額から、未来を動かす時代へ。
今回の「10万円単元株」ニュースの裏側にある、社会の変化のシグナルと、私たちにできる小さな一歩を、一緒に見ていきましょう。

ニュースの事実──「10万円単元株」要請とは?

まずそもそも単元株っていうのは、日本株を買うときに基本となる“ひとまとまり”のこと。

日本では株を買うときに「100株単位」が基本ルールになっていて、たとえば、1株3,000円なら、最低でも30万円くらい必要になる。

今はこの単元株を大体50万円くらいまでで買えるようにしましょうって呼びかけてるんだけど、これをもっと下げて10万円くらいにしましょうよっていうのが今回のニュースなわけ。

そもそも「単元株=50万円目安」はなぜ生まれた?

「株って、なんで100株まとまりで、しかも50万円くらい必要なの?」
ちょっと不思議に思うかもしれません。

背景を少し整理しておきます。

そもそも「単元株制度(株をまとまった単位で売買する仕組み)」は、1960年代から存在していました。
ただ、当時は売買単位もバラバラで、1株、10株、100株、1000株と企業によってバラつきがあったんです。

そこから時代が進み、1990年代にバブルが崩壊。
株価はガタ落ち、市場もすっかり冷え込んでしまいました。
こうした状況を受けて、東証は「ある程度まとまった金額で売買してもらった方が、市場の流動性や健全性を保てる」という考えを強めていきます。

さらに、当時はネット証券もなかったので、売買のたびに高い手数料がかかっていました。
もし1株ずつバラバラに売買されたら──

  • 手数料負担が重すぎる
  • 投資家も動きづらくなる
  • 市場も盛り上がらない

そんな問題が現実的にあったわけです。

そこで、「株価×100株=だいたい50万円前後」という水準をひとつの目安に、
企業に対して株式分割や併合で単元株を調整してもらう方向性が広まっていきました。

つまり──

  • 市場を安定させるため
  • 手数料負担を軽くするため
  • 投資を“ある程度まとまった金額”にするため

こうした時代背景があって、「50万円目安」が今まで続いてきたんです。

でも、いまは状況がぜんぜん違います。

  • ネット証券の普及で手数料ほぼゼロ
  • ポイント投資1株売買が当たり前に
  • NISA拡充で投資のハードルも下がりつつある

もう、「まとまった資金がないと株を持てない」という前提自体が、時代遅れになりつつあるんです。

実際、いまの単元株(100株)を買うために必要な金額の平均は東証全体で約18万6,599円とだいぶ下がってはいます。Reuters(2025/4/24)

中堅企業や新興企業なら、10万円台、場合によっては10万円未満で買えるところも増えてきました。

とはいえ、プライム市場(大企業)では平均で約25万8,087円と30万円以上必要な銘柄もまだまだ多いのが現実。

「もう少しだけハードル下げたいよね」という感覚は、確かに残っているわけです。

だから今回、東証は動きました。

「目安を50万円から10万円へ引き下げよう」

もっと幅広い世代が、もっと小さな金額で、正式な株主になれる時代を実現するために。

これが、今回の「10万円単元株」要請の背景です。

1株投資とは違うの?

「え、でももう1株から買えるよね?」「ネット証券で1株だけ買ってるよ」
そう思った人もいるかもしれません。

たしかに今、ネット証券では、1株単位で売買できるサービスがどんどん広がっています。

実際、学生や若い社会人を中心に、「1株だけ応援買いする」みたいなスタイルも、少しずつ広まってきました。

でも、ここで知っておきたいのが、1株売買と単元株(100株単位)には、大きな違いがあること。

たとえば──

  • 単元未満株では、株主総会での議決権が基本的にない
  • 株主優待も、受けられない場合が多い
  • 取引も、リアルタイムではなく「1日1回まとめて」みたいな形式になっていることが多い

つまり、「正式な株主」として持てる権利が、一部制限されるというのが、単元未満株の特徴です。

今回の東証の要請は、そんな「ミニ株主体験」からもう一歩進んで、

「ちゃんと正式な株主として、企業や社会に関わるハードルを下げよう」

という動きなんです。

だから、今まで「1株だけ応援買いしてた」人にとってもこれからは「ちゃんと株主になって意見を持つ」という選択肢が、ぐっと現実的なものになっていきます。

なぜ今、制度を動かすのか?──NISA拡充だけじゃない理由

今回の「単元株を10万円目安に引き下げよう」という動きは、単なる“投資をしやすくするため”だけじゃありません。

その背景には、日本社会がずっと抱えてきた、“お金が動かない”という問題があります。

1|NISA拡充で貯金マネーが動きはじめた

新しいNISA制度が始まって、個人が年間360万円まで非課税で投資できるようになりました。

これで、ずっと銀行に眠っていたお金が、少しずつ市場に流れ込んできています。

でも、NISAで選ばれているのは、ほとんどが投資信託。

「個別株にも挑戦してみよう」と一歩踏み出す人は、まだ一部にとどまっています。

2|“投資は怖い”を壊したい、政府と市場の本音

日本では長い間、「株はギャンブルみたいなもの」「やるのは一部のお金持ちだけ」そんなイメージが根強く残ってきました。

間接的に運用を任せる投資信託は広がっても、自分で企業を選んで、株主になるという経験は、なかなか広がってこなかった。

このままだと、本当の意味での「投資文化」は根付かない。

だから今、政府も金融庁も東証も、怖いもの”だった投資を、もっと身近なものにしようと、本気でテコ入れを始めています。

3|海外では“1万円台”で株主になるのが当たり前

そもそもこの「単元株」という制度自体、日本独特のものなんです。
海外では1株単位で売買できるのが当たり前。
それもあって、実は、日本の「50万円単元」というハードルは、世界でも異例の高さなんです。

  • 米ナスダック上場企業の平均単元取得額は、約1.8万円
  • フランスでは、なんと約3,000円

世界では、小さな金額で株主になり、若いうちから投資と経済を体感するのが、普通になっています。

日本だけが、「始めるのに何十万円も必要」という壁を、いまだに残している。

今回の東証の要請は、そんな世界との差を埋めていこうとする動きでもあります。

つまり──

「株を持つのは一部のお金持ちだけ」
そんな空気を、本気で壊していくために。

そして、若い世代が“社会を動かす側”に回るきっかけを作るために。

いま、制度は動こうとしているんです。

「10万円株主」が増えたら、社会はどう変わる?

「10万円で株主になれる」──
これって、ただ投資がしやすくなるだけの話じゃありません。

私たちの生活、働き方、そして社会の仕組みそのものにじわじわと変化をもたらす可能性があります。

1|【生活】優待や議決権が、“自分ごと”になる

これまでは、30万円、50万円必要だった人気銘柄も、10万円前後で手が届くかもしれない。

たとえば──

  • コンビニや外食チェーンの株主優待
  • 株主総会に出席して、自分の1票で企業の方針に意見を示すこと

こんな体験が、特別なものじゃなく、日常のちょっと先にあるものになっていきます。

2|【仕事】企業と「対等に向き合う」目線が育つ

自分が株主になると、働いている会社、就職を考える会社、商品を買う会社──
全部の見え方が変わってきます。

「この企業は、本当に社会にプラスを生んでいるか?」
「株主にきちんと説明責任を果たしているか?」

消費者としてだけではなく、オーナーの一人として社会を見る視点が自然と育っていくんです。

3|【社会】若い株主の存在が、企業風土を変える

いま、日本の株主構成は、60代以上が圧倒的に多いと言われています。

もし、若い株主が増えたら──
企業はきっと、これまで以上に、

  • 働き方改革
  • ESG(環境・社会・ガバナンス)対応
  • 社会貢献活動

こういったテーマに、本気で向き合わざるを得なくなる。

つまり10万円単元株って、単なる「小口投資がしやすくなる」という話じゃない。

社会の力関係を、少しずつ、でも確実に動かしていく一手になりうるものなんです。

単元引き下げ要請で、株主デビューのハードルは下がる?

「単元株を10万円に引き下げよう」という今回の要請。
でも、これですぐに、すべての株が10万円で買えるようになるわけじゃありません。

今はまだ、「企業に単元株を引き下げてほしい」という段階。

実際に動くかどうかは、各企業の判断に任されています。

対応する企業は、たとえば──

  • 1株を2株に分ける
  • 1株を5株に分ける

といった「株式分割」を使って、株価を調整してくると見られます。

ただ、株式分割にはコストもかかるし、株主の数が一気に増えて、総会運営が大変になるリスクもある。

だから、「すべての企業がすぐ動く」わけではないんです。

どちらかといえば、

  • 若い投資家を取り込みたい企業
  • 新しいビジネスに積極的な企業

そんなところから、動きが出てくる可能性が高い。

つまり──

「株式市場全体が一気に10万円単元になる」わけじゃない。
でも、“応援したい企業を、小さな資金で持てる時代”が確実に一歩近づく

これが今回の要請が持つ、本当の意味なんです。

今、私たちができること

制度が動くのを、ただ待つだけじゃもったいない。

10万円で株主になれる時代。
そのチャンスを、自分のものにするために、今からできることを整理しておきます。

1|NISA×単元株のミックス戦略を考える

いま、新しいNISAでは、年間360万円まで非課税で投資できる枠があります。

この枠、ぜんぶ投資信託に使うのもアリだけど──

  • 10万円だけ、自分が好きな企業の単元株を持ってみる
  • 残りはインデックス投資で育てていく

こんなふうに、「育てるお金」と「関わるお金」を分けるっていう考え方も、これからの選択肢になります。

2|証券口座のコストとサービスを見直す

単元株投資がもっと身近になると、証券口座の“使いやすさ”も大事になってきます。

  • 売買手数料はいくらか
  • 優待対応はしやすいか
  • 株主総会の案内はちゃんと届くか

いま使っている口座を、一度チェック。
必要なら、売買手数料が安いネット証券に乗り換えておくのも、ひとつの準備です。

3|「応援したい企業リスト」を作っておく

制度変更は、まだ正式には決まっていません。

でも、いざチャンスが来たときにすぐ動けるように、今から準備できることもある。

たとえば──

  • 好きなブランドや企業をリストアップしておく
  • 社会にプラスの影響を与えている企業をピックアップしておく

「どこにお金を預けるか」じゃない。
「どこに未来を託すか」という目線を少しずつ育てていきましょう。

まとめ|“10万円で未来を持つ”一歩を、今ここから

「投資」という言葉には、どこか遠い世界の話のような、どこかお金持ちだけの特権のような、そんなイメージが、ずっとまとわりついてきました。

でも、もし10万円で株主になれるなら。
もし、小さな資金で社会に参加できるなら。

それは、単にお金を増やすためじゃない。
自分の意志で、自分の未来を選ぶために、もうひとつ手段を持つこと。

まだ、制度の変更は正式に決まったわけじゃありません。

けれど、こうした動きが出てきたこと自体が、日本社会が、「お金」「社会」「個人」の関係を、少しずつ見直し始めているサインだと思うんです。

これからの時代──

お金を持つ=社会に関わる力を持つ。

そんな感覚は、きっともっと当たり前になっていく。

10万円で、未来を少しだけ動かす。
そんな一歩を、これから一緒に踏み出していきましょう。

「ジブンゴト+」でもっと深く

単元株が10万円になって個別株が買いやすくなることは分かった。

けど、「今NISAでオルカン積み立ててるし、個別株やる意味ある?」「結局S&P500が最強じゃないの?」っていう人もたくさんいると思う。

「ジブンゴト+」では特にそんな人に向けて、「結局個別株はやった方がいいのか」「積立NISAとどう棲み分けていくのか」ということについてもう少し掘り下げてみました。

“脳死でオルカン”、それだけで本当にいい? ─ 個別株もやるべきか考える|ジブンゴト+|須賀ゆめと
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